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神戸地方裁判所 昭和50年(行ウ)3号 判決 1975年8月08日

原告 木下正一

被告 三田市長・三田市税務課長

主文

一  被告らが別紙目録記載の土地に対し法定外普通税の新設を怠る事実の違法確認を求める訴えを却下する。

二  その余の訴えにつき、原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立て

一  原告

(一)  (主位的に)

被告らが別紙目録記載の土地(以下、本件土地という。)に対し固定資産税の賦課徴収を怠る事実の違法を確認する。

(二)  (予備的に)

被告らが本件土地に対し法定外普通税の新設を怠る事実の違法を確認する。

二  被告ら

主文と同旨

第二原告の主張

一  被告らの本案前の主張に対する答弁

予備的請求にかかる法定外普通税の新設を怠る事実の違法確認の訴えについて、原告が出訴前に監査請求手続を経由しなかつたことは認める。

二  請求原因

(一)  原告は肩書地に居住する三田市の住民である。

(二)  本件土地は、もと兵庫県有馬郡三輪町三輪区の所有であつて、昭和二八年一月三〇日右土地の管理者である三輪町長より訴外三田ゴルフ株式会社に対し使用目的をゴルフ場用地として賃貸され、その後三輪町が三田市に合併されたことに伴い、三田市長がその管理者となり、右訴外会社によりゴルフ場用地として使用されて現在に至つているところ、地方自治法上の財産区である三輪財産区に対し昭和三四年以降右土地についての固定資産税の賦課徴収がなされていない。

(三)  しかしながら、本件土地については、地方税法三四八条三項の規定に従つて固定資産税の賦課徴収がなされるべきであり、三田市の執行機関たる被告三田市長岡崎元次及び徴税事務を担当する被告三田市税務課長新谷茂において、前記(二)の事実を知りながら何らその是正措置を講じないことは違法である。すなわち、地方税法三四八条一項は、財産区のほか国、都道府県等に対しては固定資産税を課さない旨規定しているが、その趣旨は、国等の公的な性格と国等の相互非課税の観念に由来するに過ぎず、固定資産税はそもそも財産課税としての物税であつて、財産そのものに着目して課税されるべき性格を有するのであるから、財産区所有の土地であつても、それが本件のように公用又は公共の用に供されているものではなく、ゴルフ場用地として使用され、一般の土地と同様の状態で使用収益されている限り、これを非課税とすべきいわれはない。三輪財産区のごとく明治二二年の市町村制施行以前よりの旧慣に基づき成立し、他に何ら公の施設も設けず、又引続き旧慣による使用収益も行われていない財産区所有の財産であつても、それが第三者に賃貸され現に収益をあげている場合と、公益目的又は公共の用に供されている場合とでは本質を全く異にする。これを同一視して一律に非課税とみなすことは、ただに税収入のうち固定資産税にその多くを依存している三田市の税財源確保上相当でない(本件土地に固定資産税を賦課するとすれば、その税額は年間五〇〇万円ないし一〇〇〇万円にのぼる。)ばかりか、国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の制定趣旨に違背し、また租税の賦課徴収については同様の状況にあるものには同様に、異なつた状況にあるものには異なつた取扱をすることが租税公平負担の原則、ひいては憲法一四条の平等原則に適うところ、本件土地についても昭和三三年度までは三田市において固定資産税を賦課していた経緯があり、右土地と全くその成立事情を同じくする三田市成谷財産区に対しては、三田市内に現存する他の六か所のゴルフ場用地とともに現在もなお固定資産税の賦課徴収が行われているのであるから、ひとり三輪財産区についてのみ非課税とすることは前述の諸原則にも違反するというほかない。成谷区有財産(部落有財産)は、三輪区有財産と同様三輪町長ないし三田市長が管理処分権を行使してきたもので(成谷区有財産は昭和四〇年三月三田市が大東武一郎外一四名より無償取得した。)、その議決機関が三輪区については昭和三五年一一月より三輪財産区議会となり、成谷区については従前どおり三田市議会である点が異なるにとどまり、両者とも地方自治法上の財産区であることに変りはない。

(四)  そこで、原告は、昭和四九年一一月二四日三田市監査委員に対し被告らが本件土地に対する固定資産税の賦課徴収を怠る事実の是正惜置を請求したところ、同監査委員は昭和五〇年一月一三日原告の請求は理由がないとの結論を出し、翌一四日その旨書面で原告に通知した。

よつて、本訴において主位的に被告らの右怠る事実の違法確認を求める。

(五)  仮に、以上の請求が理由がないとしても、被告らは市税を公平に賦課徴収し、あわせて三田市の財政需要を充足させる措置を講ずべき職務上の義務があり、地方公共団体は条例により地方税の税目等を定めうる(地方税法三条)のであるから、前叙の事情に照らし、被告らが本件土地に対し条例による法定外普通税の新設の措置をとらないことは違法である。

よつて、本訴において予備的に被告らの右怠る事実の違法確認を求める。

第三被告らの主張

一  本案前の主張

原告の予備的請求にかかる訴えは適法な監査前置手続を経ていないから不適法である。すなわち、住民は監査請求を経由しなければ住民訴訟を提起しえないところ、右訴えの対象とされている怠る事実は、請求原因(四)記載の監査請求にかかる怠る事実とは全然別個の事柄であるから(前者は本件のような場合は固定資産税を課することができないことを前提とし、後者はその逆である。)、右監査請求によつて本件予備的請求の訴えの監査前置手続が履践されたことにはならない。現に原告は右請求について本件提起後の昭和五〇年四月三日三田市監査委員に対し新たな監査請求をしているのである。

二  請求原因に対する答弁と主張

(一)  請求原因事実中、(一)、(二)及び(四)の事実は認めるが、その余の事実は争う。

(二)  財産区に対しては固定資産を課することができないものであつて、財産区がその所有の固定資産を他に賃貸し、それがどのような用途に供されている場合でもそのことに変りはない。すなわち、固定資産税が非課税とされるものには、固定資産の所有者の性格によるもの(人的非課税)と、固定資産自体の性格や用途によるもの(物的非課税)との二種類がある。地方税法三四八条一項の定める人的非課税は、国及び地方公共団体が固定資産を所有する場合、その所有する主体の公的な性格に鑑み、また国、地方公共団体相互非課税の沿革に基づき、これを非課税としたものであつて、国、地方公共団体の所有する固定資産に対しては、それがどのような性格を有し、どのような用途に供されていようとも固定資産税を課することができないものである。次に、同条二項の定める物的非課税は、固定資産自体の性格及びその固定資産が供されている用途に鑑み非課税としたものである。同条二項一号に掲げる国並びに地方公共団体が公用又は公共の用に供する固定資産というのは、その所有者が国又は地方公共団体以外の者である場合であり、国及び地方公共団体の所有する固定資産については、それが他に有料で貸付けた場合であつても、同条一項のみが適用され、同条二項が適用される余地はない。また、原告が本件土地に対する固定資産税の課税の根拠規定として挙げている同条三項は、同条二項各号に掲げる固定資産に対し固定資産税を課することができる例外の場合を定めたものであつて、同条項が同条一項に定める国及び地方公共団体が所有する固定資産について適用する余地のないことは解釈上まことに明白である。

(三)  原告主張の成谷区有財産は、土地登記簿上大東武一郎外一四名の共有名義で登記されており、実際上も同人らの所有に属するものであつて、成谷財産区の所有ではない。三田市には成谷財産区という特別地方公共団体は存在しないのである。そして登記名義人たる同人らに対しては、地方税法により固定資産税を課する要件を具備しているものであり、三輪財産区に対しては同法による課税要件を具備していないものであるから、一方に課税し、他方に課税しないとしても憲法一四条一項に違反するものではないし、また固定資産税について不公平な賦課徴収をしているものにもあたらない。

第四証拠関係<省略>

理由

一  主位的請求について

請求原因(一)、(二)及び(四)の事実は当事者間に争いがない。ところで、原告は、財産区である三輪財産区が所有する本件土地につき同財産区に対し固定資産税の賦課徴収がなされるべきであると主張するが、財産区が所有する固定資産については、地方税法三四八条一項の規定により、市町村は固定資産税を賦課することはできないのであり、このことは、当該固定資産が公用又は公共の用に供されていると否と、また第三者に有償で貸付けられていると否とにはかかわらないものというべきである。すなわち、固定資産税は、固定資産自体の資産価値に着目して課せられる物税であるが、地方税法三四八条一項が、特に、「市町村は、国並びに都道府県、市町村、……財産区……に対しては、固定資産税を課することができない。」とのいわゆる人的非課税の規定を設けた趣旨は、このような国及び地方公共団体の公的な性格と、国、地方公共団体相互非課税という沿革に鑑み、かかる主体の所有する固定資産に対しては、その固定資産の使用目的、態様のいかんを問わずこれを非課税としたものと解される。このことは、いわゆる物的非課税を定めた同条二項以下においてみられる固定資産の種類、用途による区別を同条一項が何ら設けていないことからも明らかであり、原告が指摘する同条三項は同条二項各号所定の固定資産に対し固定資産税を課することができる例外の場合を定めたものであつて、同条一項の場合には適用の余地がないことも文理解釈上疑いの余地はない。そうとすれば、三輪区において本件土地をゴルフ場用地として第三者に賃貸し、賃料収益をあげていても、右土地が財産区たる同区の所有である限り、三輪区に対し固定資産税を賦課徴収する余地はないというほかない。国又は地方公共団体が固定資産を所有し、それを国又は地方公共団体以外の者において一般の固定資産と同様に使用収益されている場合に、当該固定資産所在の市町村に対し固定資産等所在市町村交付金が支払われることがある(国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律二条)のは、もとより別論であり前記解釈を左右するものではない。

さらに原告は、三田市が三輪区と同じ財産区である成谷財産区に対しては三田市内に現存する他の六か所のゴルフ場用地とともに固定資産税を賦課徴収している事実があるとし、この事実を捉えて三輪区に対し本件土地につき固定資産税を賦課しないことは租税公平負担の原則及び憲法一四条に違反する旨主張するが、原告のいう成谷財産区が果して財産区としての性格をもつものであるか否かは明らかでなく、この点をひとまず措くとして、三輪区に対しては地方税法の解釈上固定資産税は非課税とすべきである以上、原告主張のような事実があつても、それのみで本件土地に対し固定資産税を賦課しないことは原告主張のような租税公平負担の原則や憲法一四条に違反するということにはならない。

してみると、以上と異なる見解に立つて被告らが本件土地に対し固定資産税の賦課徴収を怠る事実の違法確認を求める原告の主位的請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却すべきである。

二  予備的請求について

原告は、予備的に、被告らが本件土地に対し条例による法定外普通税の新設を怠る事実の違法確認を求めているが、地方自治法二四二条の二第一項三号所定の怠る事実の違法確認の訴えは、違法に公金の賦課もしくは徴収もしくは財産の管理を怠るという事実に限つて認められるものであるところ、条例の制定のごときは、地方公共団体がその自治立法権に基づいてなすべき事柄であつて、たとえそれがあらたな普通税の税目等の新設を目的とするものであつても、これが公金の賦課徴収という概念にあたらないことはもとより、財産の管理にもあたらないことは明らかであり、原告の右怠る事実の違法確認の訴えは、その対象となり得ないものを対象としているものといわざるを得ない。そして、右訴えについて、原告が出訴前に監査請求手続を経由しなかつたことは原告の自認するところであり、また法定外普通税の新設を怠る事実は固定資産税の賦課徴収を怠る事実とは別個の事柄であつて、一方が他方より派生し、又はこれを前提とする関係にない以上、主位的請求にかかる怠る事実についてなされた前記(請求原因(四))監査請求手続をもつて、本件予備的請求にかかる怠る事実の監査前置が充足されたものとは到底解し難い。いずれにしても、本件訴えは不適法として却下を免れないといわなければならない。

三  むすび

以上のとおりであるから、原告の主位的請求は棄却し、予備的請求にかかる訴えは却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松浦豊久 篠原勝美 田中清)

別紙<省略>

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